【この記事で分かること】
・いくらの金額が適正な銀行借入額なのか
・決算数値から導く借入金の返済余力の簡便な出し方
・自分の会社は、どれだけ追加融資枠が残っているのか
・上記金額を出すための簡易計算シートとは(記事最後に添付)
【この記事のポイントは以下の通り】
☑ 会社の借入金の実態数値をつかむためには、帳簿上の借入金から、①現金化できる資産②運転資金を引く。ただし運転資金計算にあたって、不良在庫などは実数に補正しなければならない。
☑ 実態の借入金の返済能力は、経常利益+減価償却費を加算することで分かる。
☑ 実態の借入金と返済能力を比較し、10年以内は正常値、10年以上は借入が多めと判断される。
☑ 理論数値から、自社は後どれだけ追加融資を受けられるのか、どれぐらいの金額が適正借入なのか、判断基準を持っておくことは大切である。
経営者のあなたが、会社の将来について考えるときはいつですか?
一つは決算書が手元に届いて、実績数値を眺めた時だと思います。
このままで良いのか?これからどうなってしまうのか?この数字は何を意味するのか?
詳しく見ていきましょう。
今日は、決算書の中でも、貸借対照表、特に「借入金」についてお話ししたいと思います。
手元に自社の決算書(貸借対照表、損益計算書、一般費及び販売管理費明細、製造原価報告書)をご用意いただくと分かりやすいと思います。
【目次】
借入金には、短期借入金と長期借入金があります。
貸借対照表「負債の部」を見ると、流動負債に「短期借入金」が、固定負債に「長期借入金」があります。
この中には、銀行から借入して利子を払っている「有利子負債」があります。
それとは別に、役員から借りている「役員借入金」、グループ会社(親会社、子会社)から借りている「関係会社借入金」があるかもしれません。
固定負債には、「長期未払金」という項目がありますが、これは車両や機械などをリースしている際のリース料のことです。
ここでは借入金に含めません。
会社の借入金はいくらなのか、、、
単純にいえば、短期借入金、長期借入金、役員借入金、関係会社借入金を合計した金額と言えます。
【会社の借入金計算式】
会社の借入金=短期借入金+長期借入金+役員借入金+関係会社借入金・・・・・①
※役員借入金は、経営者が会社から将来に渡り返済してもらう予定がない場合、上記計算式から減ずることができます。相続が発生した場合は相続財産になるため、当記事では役員借入金は借入金として計算しています。
ただ実態の金額を把握するには、もう少し中身を見ていく必要があります。
極端ですが、例えばいま会社を閉じた場合、いくら借入金が残るのかという観点で考えてみます。
まず現金・預金があれば借入金と相殺できます。また積立式の保険などがあれば、解約すれば資金が返ってきます。
または上場株式や投資信託があれば、売却すれば時価金額が返ってきます。
一方、土地や建物の場合は、もし売れるとしても資金化するまでに時間がかかります。
短い時間で資金化出来る資産は何か、と考えると、上記、現金・預金、積立式保険の解約金、投資信託や上場株式の解約金、などが該当しそうです。
そのため、実態の借入金をつかみたい場合、これらを減算します。
【資金化資産控除後の借入金計算式】
資金化資産控除後の借入金=上記計算式の会社借入金①-(現金・預金+積立式保険・投資信託・上場株式の解約金)・・・・・②
例えば、借入金10,000万円(1億円)、現金預金2,000万円、保険・株式・投資信託の解約金合計1,000万円としましょう。その場合、
10,000-(2,000+1,000)=7,000万円・・・資金化資産控除後の借入金・・・・・③
と言えそうです。
しかしもう一つ減算できるものがあります。
それは、
会社の運転資金です。
運転資金の簡便的な計算式は以下です。
【運転資金計算式】
売掛金+受取手形+棚卸資産(在庫、仕掛品・仕掛工事など)-(買掛金+支払手形)・・・・・④
例えば、売掛金3,000万円、棚卸資産4,000万円、買掛金2,000万円、支払手形2,000万円の場合、
3,000+4,000-(2,000+2,000)=3,000万円・・・・・⑤ となります。
この3,000万円を③から引いて考えます。
なぜ運転資金が減算できるかというと、現時点で商売をやめる(厳密にいうと在庫は売りさばくためタイムラグが発生しますが)と売掛金は入金なり、在庫は売却し、買掛金や支払手形は支払いを完了させたあと、残る資金(キャッシュ)が上記の場合なら3,000万円となるからです。
この3,000万円は、借入金の支払に充当できます。
※ただし計算式に当てはめて、この金額(運転資金数値)がマイナスになることがあれば、逆に実態の借入は増えることになります。
【実態の借入金計算式】
⑥実態の借入金=③資金化資産控除後の借入金7,000万円-⑤運転資金3,000万円=4,000万円・・・・・⑥
4,000万円が実際の借入金です。
1億円だと思っていた借入金が実態は4,000万円だった、と考えることができます。
運転資金の計算の際、注意点があります。
決算書には、売掛金の回収不能部分や棚卸資産のデットストック(売り物にならない不良在庫や架空在庫)が含まれていることがあります。
もしこうしたものがあれば、その不良の金額分、運転資金の計算式(④)の際、減算が必要です。
上記例題⑤の場合、仮に不良在庫デットストックが1,000万円あったとすると、運転資金額は2,000万円(以下⑦)となり、実際の借入金は5,000万円(以下⑧)となり、最初の計算から1,000万円増えます。
【修正後の運転資金と実際の借入金】
修正後運転資金=⑤運転資金3,000万円-不良在庫1,000万円=2,000万円・・・・・⑦
⑥実態の借入金=1億円-3,000万円(現預金、株式・保険解約)-2,000万円(⑦修正後運転資金)=5,000万円・・・・・⑧
また、現金預金の金額も精査が必要です。
以下のものは現預金の金額から減算が必要です。
☑ 決算書には記載があるが、決算期末に実は手元に無かった現金(いわゆる架空現金)
☑ 預金うち公共工事の前受金口座の残高
☑ 手付金や中間金などの前受金
このように実態の数値を把握することが大切です。
まず借入金を合算し、資金化出来る資産と運転資金を減算(不良部分は減算)して、実態借入金を出せました。
では、その数字を何と比較するのか?
それは損益計算書の利益です。
簡便的に言えば、税引き後経常利益と減価償却費の合計額です。
これが実態の借入金の返済財源になります。
【返済財源の計算式】
借入金の返済財源=経常利益+減価償却費-法人税充当額
減価償却費を返済財源と考えるのは、減価償却費は現金支出を伴わない経費だからです(ただしそのうち現金支出が発生するリース資産の減価償却費だけは減算してください)。
減価償却費について、詳しくは以下記事を参照ください。☟
「減価償却費の意味、経営への影響」https://wada-keiei.com/archives/6873(和田経営相談事務所オフィシャルホームページ)
例えば、経常利益が1,000万円、減価償却費が500万円、法人税が300万円なら、
借入金の返済財源=1,000+500-300=1,200万円・・・・・⑨
先ほどの実態の借入金(不良在庫補正後)⑧5,000万円をこの数値⑨で割ります。
5,000万円÷1,200万円=4.166…・・・・・⑩
実態の借入金は4.166…年で返済できることになります。
通常、⑩の数値が10年以内になれば適正と言えますから、この例題の会社(実在しない架空会社です)は適正であると言えます。
この考え方から、自社の借入金規模(預金・株式や運転資金控除後の実態借入金)なら、適正値の10年以内に収めるためにどれぐらい年間返済財源が必要か、逆算することができます。
以上、実態の借入金と返済財源の数値の出し方と、比較方法についてお話ししました。
あなたの会社は適正範囲に納まりましたか?
あくまでも数値理論上の過程数値ですが、目安が知りたいと思いますので、自社はあと借入がどれぐらいできるのか、判断基準を話します。
上記事例企業の場合は、返済余力が12,000万円(1,200万円×10)で、実態の借入金(不良在庫補正後)が5,000万円でしたね。※年間返済財源の10倍を返済余力とします。※
このケースの場合、追加融資可能額の理論値は、7,000万円です。
12,000万円ー5,000万円=7,000万円・・・追加融資可能額
ただし、返済財源1,200万円は、赤字になると減少します。その時、追加融資可能額は連動して減少しますので、注意が必要です。
事例企業の計算シートを添付しますね(画面クリックで表は拡大します)。
【この記事の事例企業の計算シート】
この記事のやり方で、自社数値を調べてみたい方。または経営の診断を考えている方。
当事務所には以下リンクのような簡易診断サービスもありますので、ご興味を持たれた方は、ご連絡ください。
簡易経営診断サービス https://wada-keiei.com/kanni(和田経営相談事務所オフィシャルホームページ)
最近、支援先企業と一緒に、決算報告などで銀行訪問をしていると、銀行員が銀行独自に作成した財務診断書を提出してくることが増えました。
財務診断を、融資以外の銀行付加価値サービスとして、積極的に提供しているようです。
流動比率、負債比率、自己資本比率、各種の利益率、売上高増加率、生産性の各比率……。
色々と細かい分析が書いてはあるのですが、経営者からすると、どこをどうすれば会社が良くなるのか、いまいち難しい部分があるかもしれません。
大切なのは、この記事でお話ししたように、まずは実態をつかむこと(決算書を実態に修正)です。
そしてその数値を踏まえて、どこをどうすれば会社が改善するのか、考えて行動に移すことです。
今日お話しした数字は、そのための判断材料になるでしょう。
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