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SWOT分析。不都合な真実と有効化の方法:事業デューデリ|経営危機を乗り越える!経営再建計画の作り方|⑤

経営コンサル業界において、最も有名でスタンダードなフレームワークは「SWOT分析」です。

コンサルの基本はSWOT分析。困ったらSWOT分析。

SWOT分析

 

はじめに:SWOT分析を経営再建計画にどう活かすか?

これまでの記事で、経営再建計画書(経営改善計画)作成の基礎となる事業デューデリジェンス(事業DD)における「内部環境分析」と「外部環境分析」について解説してきました。今回は、これらの分析結果を統合し、戦略立案の基礎情報を整理するための代表的なフレームワークである**「SWOT分析」**に焦点を当てます。

SWOT分析は経営戦略論の基本として広く知られていますが、経営再建の現場で効果的に活用するには、いくつかの「落とし穴」を理解し、実践的なポイントを押さえる必要があります。この記事では、経営再建計画書の書き方を学ぶ皆様に向けて、SWOT分析の基本的な考え方、陥りやすい課題、そして中小企業の再建スキームにおいて有効活用するための具体的な方法を解説します。

 

SWOT分析とは?:内部と外部を整理する基本フレームワーク

まずは、SWOT分析の基本的な概念を確認しましょう。

SWOT分析の4つの要素(強み・弱み・機会・脅威)

SWOT分析は、以下の4つの要素の頭文字を取ったもので、企業の現状を多角的に分析するためのフレームワークです。
・S (Strengths):強み
目標達成に貢献する、自社の内部にある positiva な特性。
例: 高い技術力、ブランド力、優秀な人材、良好な財務状況、独自のノウハウなど。
・W (Weaknesses):弱み
目標達成の障害となる、自社の内部にある negativa な特性。
例: 技術力の不足、ブランド力の低さ、人材不足、脆弱な財務基盤、非効率な業務プロセスなど。
・O (Opportunities):機会
目標達成に貢献する可能性のある、自社の外部にある positiva な要因。
例: 市場の拡大、競合の撤退、新たな技術の登場、規制緩和、顧客ニーズの変化など。
・T (Threats):脅威
目標達成の障害となる可能性のある、自社の外部にある negativa な要因。
例: 市場の縮小、強力な競合の出現、技術の陳腐化、規制強化、景気後退など。

内部環境(強み・弱み)は自社である程度コントロール可能ですが、外部環境(機会・脅威)は自社でコントロールすることが難しい要因です。

事業デューデリジェンスにおける位置づけ

経営再建計画書作成における事業デューデリジェンス(事業DD)では、内部環境分析と外部環境分析で得られた情報を、このSWOTの4象限に整理します。これにより、自社の置かれている状況を俯瞰的に把握し、今後の戦略(アクションプラン)を検討するための基礎情報とします。

 

SWOT分析の「落とし穴」:自己目的化していないか?

SWOT分析は有用なツールですが、使い方を誤ると効果を発揮しないどころか、時間だけを浪費してしまう可能性もあります。実務上よく聞かれる課題として、以下のような点が挙げられます。

分析自体が目的になってしまうリスク

SWOT分析はフレームワークとして分かりやすいため、実施すること自体が目的化してしまうことがあります。「SWOT分析をやった」という事実に満足してしまい、その分析結果が具体的な経営再建のアクションに結びつかないケースです。重要なのは分析結果をどう活かすかであり、分析そのものがゴールではありません。

クロスSWOT分析から戦略は生まれるか?(実務上の課題)

一般的に、SWOT分析の次には、各要素を掛け合わせて具体的な戦略を導き出す「クロスSWOT分析」(例:強みを活かして機会を掴む戦略、弱みを克服して脅威に備える戦略など)が行われます。

しかし、経営再建という厳しい状況下においては、単純な要素の組み合わせだけでは、現実的かつ効果的な再建戦略が導き出せないことも少なくありません。形式的にクロスSWOT分析を行っても、当たり障りのない戦略しか出てこなかったり、実行可能性の低い理想論に終わってしまったりするケースも見られます。分析が経営コンサルタントの自己満足に陥っていないか、常に問いかける姿勢が必要です。

 

SWOT分析を「使える」分析にするための実践ポイント

では、SWOT分析を単なる形式的な作業に終わらせず、経営再建計画に本当に役立つ「使える」分析にするためには、どうすれば良いのでしょうか。いくつかの実践的なポイントが考えられます。

ポイント1:人材育成のツールとして活用する(後継者・幹部育成)

SWOT分析のプロセスに、後継者候補や将来の幹部となる従業員を積極的に参加させる方法です。

・目的: 会社の現状や課題に対する当事者意識を高め、経営的な視点を養う。
・進め方: 専門家(コンサルタントなど)はファシリテーター役となり、参加メンバーから意見を引き出し、議論を深めるサポート役に徹します。出てきた意見を整理・補足し、分析の質を高めながら、参加者自身の気づきと成長を促します。
・効果: 分析結果だけでなく、分析プロセスそのものが人材育成の機会となります。

ポイント2:分析の切り口を具体化・多角化する(詳細フォーマット例)

SWOTの各要素を単にリストアップするだけでなく、より具体的な「切り口」を設定し、多角的に分析する方法です。これにより、分析の解像度が上がり、より本質的な強みや弱み、機会や脅威が見えやすくなります。

SWOT分析フォーマット

このように切り口を細分化することで、漠然とした分析に陥るのを防ぎ、経営者自身も気づいていなかった新たな視点を提供できる可能性が高まります。

ポイント3:分析結果の「伝え方」を工夫する(行動変容を促すコミュニケーション)

特に「弱み」や「脅威」といったネガティブな分析結果を経営者に伝える際には、細心の注意が必要です。正面から弱点を指摘されることを快く思わない経営者は少なくありません。

・目的: 分析結果を客観的な事実として受け止めてもらい、経営再建に向けた前向きな行動変容を促す。
・伝え方の工夫:
「会社が今後より良くなるため」という共通の目的を明確にする。
経営者個人の資質を直接的に批判するのではなく、会社のシステム上の問題や業界構造といった客観的な要因に焦点を当てる。
・一方的に指摘するのではなく、経営者自身が課題に気づけるような問いかけや対話を重視する。

分析結果の提示が進む段階では、経営者自身も自社の弱点に薄々気づいていることが多いものです。「指摘」ではなく「気づき」を提供することで、抵抗感を和らげ、主体的な改善行動を引き出すコミュニケーションが重要になります。

 

AI時代のSWOT分析と専門家の役割

近年、生成AIの能力向上により、基本的なSWOT分析(特に外部環境の機会・脅威)は、誰でも簡単に行えるようになりました。これは、SWOT分析を強みとしてきた経営コンサルタント(特に中小企業診断士など)にとって、差別化が難しくなるという課題をもたらしています。

コモディティ化する分析と差別化の必要性

AIが生成する一般的な分析結果だけでは、経営再建という複雑な課題に対応することは困難です。今後、専門家には、AIにはできない付加価値を提供することが求められます。

専門家が提供すべき付加価値

専門家がAIとの差別化を図り、真に価値を提供するためには、以下のような能力を磨くことが重要と考えられます。

1. 深い内部環境分析に基づく洞察: AIがアクセスしにくい社内の詳細情報や人間関係、企業文化などを踏まえた、質の高い内部環境分析に基づいたSWOT分析を行う。 (参考:内部環境分析のポイント

2. 高度なファシリテーション能力: 関係者(経営者、従業員、金融機関など)を巻き込み、議論を活性化させ、合意形成を導く能力。

3. 行動変容を促すコミュニケーション能力: 分析結果を分かりやすく伝え、経営者のモチベーションを高め、具体的な行動へと繋げる人間力。

SWOT分析というツールを使いこなすだけでなく、これらの人間系スキルを駆使して経営再建を支援することが、これからの専門家に求められる役割と言えるでしょう。

 

まとめ:SWOT分析を経営再建の「武器」にするために

SWOT分析は、経営再建計画書作成における現状分析の代表的なツールですが、その実施自体が目的ではありません。形式的な分析に陥ることなく、

・人材育成に活かす
・分析の切り口を工夫する
・伝え方を工夫する

といった実践的なポイントを押さえることで、経営再建に本当に役立つ「武器」となり得ます。常に「この分析を通じて何を得たいのか」「どう行動に繋げるのか」という目的意識を持つことが重要です。

 

経営再建計画書作成の参考情報

計画書のサンプル・テンプレートについて

経営再建計画書の全体像や標準的な構成を理解するために、中小企業庁、中小企業活性化協議会、認定経営革新等支援機関などのウェブサイトで提供されている事業再生計画書のサンプルやテンプレート、経営改善計画の手引きなどが参考になります。

ただし、これらはあくまで一般的な雛形です。SWOT分析を含むデューデリジェンスの結果を踏まえ、自社の固有の状況に合わせた具体的な内容を盛り込んだ、オリジナルの経営再建計画書を作成することが不可欠です。書き方の参考に留め、専門家と相談しながら内容を練り上げてください。

(補足)事業DDの他のステップや支援制度について

この記事ではSWOT分析に焦点を当てましたが、事業デューデリジェンスは、内部環境分析、外部環境分析、そして次回解説予定の「結論(経営課題の設定と改善の方向性)」へと繋がっていきます。経営再建計画書全体の質を高めるためには、これらのステップを一連の流れとして理解することが重要です。

(関連情報)
次回は、事業デューデリジェンスの最終ステップである「結論:経営課題の設定と改善の方向性」について解説する予定です。SWOT分析の結果をどのように具体的な課題認識とアクションプランの方向付けに繋げるのかを見ていきます。

 

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