「毎月の試算表も期末の決算書も、最終利益は黒字になっている。それなのに、なぜ通帳の残高が増えず、資金繰りの心配がなくならないのか」
一定の売上基盤を築き、次の設備投資や事業拡大を考えている中小企業ほど、この問題に直面することがあります。
原因の一つが、損益計算書には表示されない長期借入金の元金返済です。利益が出ていても、本業から生み出す返済財源を上回る元金返済が続けば、会社の預金は徐々に減っていきます。
確認すべきなのは、決算書が黒字かどうかだけではありません。「自社が年間に生み出せる返済財源」と「実際の年間元金返済額」のバランスです。
この記事では、決算書と借入金返済予定表を使って、長期借入金返済余力と元金償還能力を簡易判定する方法を解説します。

経営者が決算書を見るとき、最初に注目しやすいのが損益計算書の最終利益です。税引後当期純利益が黒字なら、それだけ会社にお金が増えたように感じるかもしれません。
しかし、利益と手元資金の増減は一致しません。特に大きな影響を与えるのが、長期借入金の元金返済です。
借入金の元金返済は、借りていた負債を減らす取引であり、経費にはなりません。そのため、毎月多額の資金が流出していても、元金返済額は損益計算書に表示されません。
つまり、決算書上は利益が出ていても、その利益を上回る元金返済があれば、手元資金は減少します。
「黒字だから返済できている」と考えるのは危険です。
黒字額ではなく、返済に使える資金と元金返済額を分けて確認する必要があります。
長期借入金の元金は、基本的に本業から生み出した資金によって返済します。その返済に充てられる資金を、ここでは「返済財源」と呼びます。
返済財源を把握するための基本的な考え方は、次のとおりです。
基本的な返済財源
= 税引後当期純利益 + 減価償却費
減価償却費は費用として利益を減らしますが、その期に同額の現金が流出するものではありません。そのため、返済に使える資金を考える際には、税引後当期純利益へ加えます。
減価償却について詳しく確認したい方は、以下の記事も参考にしてください。
【参考記事】【元銀行員が警告】税理士の「減価償却を見送りましょう」は黒字倒産の罠!リース資産の例外と真の返済財源(2026年版)
単年度の利益には、一時的な売上増加や費用発生などによる振れがあります。そこで、直近1期だけではなく、過去2期の補正後数値を平均し、継続的に生み出せる返済財源を確認します。
例えば、補正後の「税引後利益+減価償却費」が1期前は800万円、2期前は700万円だった場合、平均返済財源は次のようになります。
① 1期前の補正後返済財源:800万円
② 2期前の補正後返済財源:700万円
▶ 2期平均:(800万円+700万円)÷2=750万円
この会社が平常的に生み出せる年間返済財源は、簡易判定上750万円と考えます。
「税引後当期純利益+減価償却費」をそのまま使うだけでは、継続的な元金償還能力を実態より大きく、または小さく見積もる可能性があります。
そこで、過去2期の決算書について、次の補正を行います。
不動産売却益などの特別利益は、その期に一度だけ発生した利益であり、毎年の返済財源として期待することはできません。反対に、株式売却損などの特別損失も、継続的に発生するものでなければ本業の収益力と分けて考えます。
税金への影響を含む具体的な補正方法は、決算内容によって異なるため、必要に応じて顧問税理士などへ確認してください。
減価償却費の中にファイナンス・リース資産分が含まれている場合、その金額をそのまま返済財源へ足し戻すと、元金償還能力を過大に見る可能性があります。
リース料として現金が流出しているため、リース資産に対応する減価償却費は除外します。対象額は固定資産台帳や法人税申告書の別表16などで確認します。
真の返済財源を把握するポイントは、毎年繰り返し生み出せる資金だけを残すことです。
返済財源を算出したら、次は実際の年間元金返済額を確認します。
年間元金返済額は、決算書に記載された長期借入金残高だけでは分かりません。各金融機関から交付されている「長期借入金返済予定表」を用意してください。
例えば、全借入を合計した毎月の元金返済額が160万円であれば、年間元金返済額は1,920万円です。
月額元金返済額160万円 × 12か月
= 年間元金返済額1,920万円
真の返済財源と年間元金返済額が分かれば、自社の長期借入金返済余力を計算できます。
長期借入金返済余力
= 2期平均の補正後返済財源 − 年間元金返済額
先ほどの事例では、返済財源が750万円、年間元金返済額が1,920万円です。
平均返済財源:750万円
年間元金返済額:1,920万円
返済余力:750万円−1,920万円=▲1,170万円
本業から生み出す返済財源に対し、年間1,170万円の元金返済が不足している状態です。この不足分は、既存預金の取り崩し、資産売却、新たな借入、経営者からの資金投入など、別の資金で埋めなければなりません。

返済余力がプラスでも、追加融資が自動的に受けられるわけではありません。
新たな借入後の年間元金返済額まで含めて、返済財源の範囲に収まるかを確認する必要があります。
返済余力がマイナスだからといって、追加融資によって不足分を埋め続ければよいわけではありません。新たな借入にも返済が始まるため、構造的な不足がさらに大きくなる可能性があります。
まずは不足額を明確にし、収益力と返済条件の両面から改善策を検討します。
金融機関へ相談する際は、「資金繰りが苦しい」という説明だけでなく、補正後返済財源、年間元金返済額、不足額、改善計画を数字で示すことが重要です。
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長期借入金の返済能力は、決算書の最終利益だけでは判断できません。
過去2期の税引後当期純利益と減価償却費を確認し、一過性の特別損益やリース資産分を補正したうえで、年間元金返済額と比較する必要があります。
長期借入金の真の元金償還能力とは、利益が出ているかどうかではなく、本業から生み出す返済財源で年間元金を返した後に、どれだけ余力が残るかです。
この計算は、自社の元金償還能力を把握するための簡易判定です。実際の資金繰りや融資判断では、売掛金、在庫、設備投資、今後の収益計画なども関係します。
まずは自社の不足額や余力を数字で把握し、その結果を資金調達や財務改善の出発点にしてください。
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