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なぜ進まない?DDS(資本性借入金)活用を銀行がためらう理由と企業への影響【協議会版・経営者の覚悟・政府系ローンも解説】

金融庁が事業再生等の切り札として推進するDDS(デット・デット・スワップ/資本性借入金)。特に、全国の中小企業活性化協議会(以下、協議会)が関与する**「協議会版DDS」**は、中小企業の財務改善と再生支援の枠組みとして注目されています。しかし、政策的な後押しとは裏腹に、実際の現場では銀行がDDSの活用に必ずしも積極的ではないという声が多く聞かれます。「DDS 銀行 嫌がる 理由」はどこにあるのでしょうか?

私自身、中小企業支援や事業再生のコンサルティングに携わる中で、このギャップを肌で感じています。銀行との計画策定協議において、DDSの選択肢を提示しても、担当者の反応が鈍いケースは少なくありません。

この記事では、中小企業支援の専門家として、「DDSとは」何か、その仕組みから、企業(決算書)や今後の融資への影響(「DDS 決算書 影響」「DDS 融資への影響」)、そして銀行が活用をためらう背景にある構造的な理由までを深掘りします。さらに、DDSの金額がどう決まるのか、実行にあたり経営者に何が求められるのか、政府系金融機関の資本性ローンとの関係性、そして**「協議会版DDS」の具体的な特徴や活用状況**についても解説を加えます。

DDS(デット・デット・スワップ/資本性借入金)とは?基本的な仕組み

まず、「DDSとは」何か、その基本的な枠組みを理解しましょう。

既存借入金を「資本に近い」借入金へ転換

DDSは、企業が抱える既存の銀行借入金の一部または全部を、実質的に資本に近い性質を持つ「劣後ローン(資本性借入金)」に転換する金融手法です。借金がなくなるわけではありませんが、その「質」が変わります。主な特徴は以下の通りです。

・返済優先順位の劣後: 万が一の場合、他の通常の借入金よりも返済順位が後回しになります。

・非常に長い返済期間・元本返済猶予: 返済期限は10年超など長期で期日一括返済が多く、期間中の元本返済は猶予されます。

・条件付きの利払い: 利息は発生しますが、金利水準は高めで、支払いは業績連動となることもあります。

DDSの金額はどう決まるのか?

DDSを実行する際の金額(DDS金額の決め方)は、企業の状況に応じて個別に決定されます。一般的には、債務超過の解消や目標とする自己資本比率の達成など、経営改善計画の中で設定された財務目標をクリアするために必要な額が、銀行との交渉を経て決まります。これは企業の希望額ではなく、計画の実現可能性と銀行のリスク許容度を考慮した上で算出されるものです。

金融検査上の「自己資本みなし」とその効果

DDSの重要な特徴は、銀行の健全性を測る金融検査等において、転換された部分が**「自己資本」として見なされる(自己資本みなし)**ことです。これにより、企業の財務格付け(債務者区分)が改善する効果が期待されます。

DDSが企業の決算書と新規融資に与える影響

DDSの実行は、企業の決算書や将来の資金調達にどのような影響をもたらすのでしょうか。

決算書(貸借対照表)への影響:債務超過解消の可能性

DDS 決算書 影響」として最も直接的なのは、貸借対照表(B/S)の改善です。「自己資本みなし」効果により、計算上の自己資本が増加し、債務超過状態が解消されたり、自己資本比率が大幅に向上したりします。

 

【DDS前後の貸借対照表の変化】

DDS(債務の株式化)前後の貸借対照表の変化(サンプル)
勘定科目 DDS実施前 DDS実施後 増減額
資産の部
流動資産 合計 1,000 1,000 0
固定資産 合計 2,000 2,000 0
資産合計 3,000 3,000 0
負債の部
流動負債 合計 500 500 0
固定負債 合計
(※DDS対象の借入金等を含む)
1,500 500 -1,000
負債合計 2,000 1,000 -1,000
純資産の部
資本金 500 500 0
資本剰余金
(※DDSによる増加分を含む)
200 1,200 +1,000
利益剰余金(繰越利益剰余金) 300 300 0
純資産合計 1,000 2,000 +1,000
負債純資産合計 3,000 3,000 0

※上記はサンプル数値です。実際のDDSの内容により変動する科目は異なります。
※DDSにより、一般的に負債が減少し、同額の純資産(主に資本剰余金や資本金)が増加します。

[関連記事:決算書の見方 – 資産超過と債務超過の違いとは? 実質債務超過にも注意!]

新規融資への影響:期待と現実

DDS 融資への影響」については、理論上、債務者区分が改善することで新たな融資(プロパー融資や保証付き融資)を受けやすくなるとされています。

しかし、これはあくまで「可能性」であり、保証されるものではありません。 銀行はDDS実行後も、経営改善計画の進捗や事業の将来性を厳しく見ています。DDSは過去の財務問題の裏返しでもあるため、新たな融資判断は慎重に行われるのが実態です。

なぜ銀行はDDS活用に慎重なのか?現場で聞かれる「嫌がる理由」

政策として推進されているにも関わらず、なぜ現場の銀行はDDSの活用に積極的になれないのでしょうか? その「DDS 銀行 嫌がる 理由」の核心は、銀行自身の財務に与える影響、特に**「貸倒引当金」**の問題にあります。

金融庁が推進するロジック

金融庁は、DDSには銀行側にもメリットがあるとして推進しています。主なポイントは、①企業の債務者区分改善による他の健全債権への引当金削減効果、②「協議会版DDS」活用時の引当金損金算入(無税償却)などです。

銀行側の本音:貸倒引当金の壁

しかし、銀行内部の判断はよりシビアです。

・DDS債権への高額な引当金: 劣後化するDDS債権は回収リスクが高いため、銀行はこれに対し非常に多額の貸倒引当金を追加で積む必要があります。

・引当金の純増インパクト: 多くの場合、「DDS債権への追加引当額」が、「企業の区分改善による他の一般債権の引当金減少額」を上回り、結果的に銀行の引当金負担は増加します。これは銀行の利益を直接圧迫します。

この**「引当金コストの増加」**が、銀行がDDS実行に二の足を踏む最大の理由と考えられます。

「協議会版DDS」とは?中小企業活性化協議会の役割と活用状況

ここで、特に注目される「DDS 中小企業活性化協議会」のスキーム(協議会版DDS)について詳しく見ていきましょう。

・協議会版DDSの定義: 全国47都道府県に設置されている公的支援機関「中小企業活性化協議会」(旧:中小企業再生支援協議会)が関与し、その支援のもとで策定された経営改善計画に基づき実行されるDDSを指します。

・プロセス: 企業が協議会に相談し、専門家(協議会の統括責任者補佐など)の支援を受けながら経営改善計画を策定します。この計画には、必要に応じてDDSの実行が盛り込まれます。協議会は、計画の妥当性を評価し、関係する銀行との合意形成(バンクミーティング等)を中立的な立場で支援・調整します。

・銀行側のメリット(税制優遇): 協議会が「支援決定」を行った再生計画に含まれるDDSについては、銀行が追加で計上する貸倒引当金について、税務上の損金算入(無税償却)が認められる場合があります。これは、銀行にとって引当金負担を税務面で軽減できる大きなメリットであり、協議会版DDSの最大の特徴とも言えます。

・活用状況に関するデータ: 中小企業庁が公表するデータによると、中小企業活性化協議会は年間数千件規模で企業の再生計画策定を支援しており、その支援メニューの中で資本性資金の供給(DDSや資本性ローン等を含む)は重要な選択肢の一つとして位置づけられています。(具体的なDDS実行件数のみを切り出した全国統計は限定的ですが、協議会が関与する再生スキームの中で活用されていることは確かです。)

[参考リンク:中小企業庁 中小企業活性化協議会ウェブサイト]

限界: ただし、この税制優遇措置をもってしても、前述の会計上の引当金負担増という根本的な問題が解消されるわけではありません。 そのため、協議会の支援があっても、最終的に銀行がDDS実行に同意するかは、個別の案件ごとに慎重な判断となります。

DDSを検討・実行する上での企業の留意点と覚悟

DDSは有効な選択肢ですが、企業側も安易に考えるべきではありません。

メリットとデメリットの再確認

メリット(資金繰り改善、決算書改善等)だけでなく、デメリット(高金利、元本返済義務、銀行の同意必要、改善計画必須)を十分に理解する必要があります。

金利条件と市場環境(金利動向の影響)

DDSの金利は通常高く設定されます。そのコストと、他の選択肢(通常のリスケジュールなど、現在の短期プライムレートやTIBOR等の市場金利動向を反映した条件)とを比較検討することが重要です。

経営改善計画の重要性と経営者に求められること

DDSは経営改善とセットです。銀行はDDS実行の見返りとして、経営者に対して以下の点を強く求めます。

・経営改善計画の着実な実行: 絵に描いた餅ではなく、具体的な行動と成果。
・経営者の強いコミットメントと覚悟: 事業再生への本気度、リーダーシップ。
・定期的な業績報告と透明性の確保: 計画進捗の誠実な報告義務。
・場合によっては、追加の個人保証や資産提供など。

「経営者が銀行から求められること」は、単なる財務改善だけでなく、事業再生への真摯な姿勢そのものです。

政府系金融機関の「資本性ローン」との違い・関係性

DDSと似た目的で利用されるものに、政府系金融機関(日本政策金融公庫、商工中金など)が提供する「資本性劣後ローン」があります。これは新規融資であり既存借入の転換ではない点がDDSと異なりますが、劣後性、長期性、業績連動金利など資本に近い性質を持つ点は共通です。企業の状況に応じて、DDSの代替案、あるいはDDSと組み合わせて活用することも検討されます。どちらが適しているか、利用可能かは専門家との相談が必要です。

[関連記事:資本性劣後ローンのメリット・デメリット]

専門家への相談

DDSの検討、経営改善計画の策定、銀行との交渉は、高度な専門知識と交渉力を要します。必ず、信頼できる専門家(経営コンサルタント、税理士、弁護士など)や、必要に応じて「中小企業活性化協議会」に相談しながら進めてください。

まとめ:銀行の事情も理解し、覚悟をもって戦略的な活用を

DDS(資本性借入金)は、財務的に厳しい状況にある企業にとって再生のチャンスとなり得る手法です。しかし、「DDS 銀行 嫌がる 理由」として解説した通り、銀行側の貸倒引当金負担の問題から、その活用は必ずしも容易ではありません。「DDS 中小企業活性化協議会」のスキームはそのハードルを下げる一助となり得ますが、万能ではありません。

企業としては、「DDSとは」何か、自社の「決算書」や将来の「融資への影響」を正しく理解し、メリット・デメリットを把握した上で、銀行側の事情も踏まえた交渉が必要です。そして何より、DDS実行に際しては、経営者自身の強い覚悟と、実現可能性の高い経営改善計画の実行が不可欠です。「政府系金融機関の資本性ローン」といった他の選択肢も視野に入れつつ、専門家の支援を得ながら、自社にとって最善の再生戦略を描くことが重要です。

この記事が、DDSに関する皆様の理解を深め、適切な経営判断を行うための一助となれば幸いです。

 

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