「社員にはコストカットをお願いしている手前、自分の生活水準も少し見直すべきだろうか…」
「この高級車は長年の夢だったんだが、社員たちはどう見ているんだろう…まさか『社長だけ贅沢しやがって』なんて思ってないよな…」
「最近、SNSでの会食の投稿に『いいね!』は付くけど、社員からの反応が薄い気がする…何か勘違いさせていないだろうか…」
業績が低迷しコストカットを断行するとき、あるいは新たな市場を開拓し新規事業に乗り出すとき。
どのような経営判断を下すにしても、その実行には社員の理解と協力が不可欠です。
なぜなら、方針を決定するのは社長であるあなたでも、実際に現場で汗を流し、顧客と接するのは社員だからです。そして、あなたが思う以上に、社員は社長であるあなたの日常的な言動を注意深く見ています。その一つひとつが、社員のモチベーションや会社への信頼感を大きく左右するのです。
本記事では、中小企業支援コンサルタントの視点から、社長のどのような行動が「社長だけ贅沢している」と社員に受け取られ、それがどのようなリスクに繋がるのか、そして、どうすれば社員との間に強固な信頼関係を築き、会社を成長させていけるのかについて、具体的な事例を交えながら考えていきます。
【目次】
私自身も起業し事業を営む経営者の一人として、社長という立場がいかに重い責任とプレッシャーを伴うものか、日々痛感しています。会社の借入金の個人保証はもちろんのこと、文字通り全てを賭けて経営に臨んでいる方も少なくないでしょう。
しかし、社長が抱えるこうした苦労や覚悟が、必ずしも社員に正しく伝わっているとは限りません。むしろ、「社長は気楽でいいな」「自分たちとは違う世界の人間だ」と、社長と社員の間に大きな認識のギャップが生じているケースも散見されます。この見えにくいギャップこそが、後々、社員の不満や不信感、ひいては社員 離反といった深刻な問題の温床となり得るのです。
では、具体的にどのような社長の行動が、社員の不満や不信感を招きやすいのでしょうか。ここでは代表的な3つのケースを見ていきましょう。
1. 新規事業への不透明な投資 – 「自分たちの頑張りが…」という社員の疑念
会社が持続的に成長していくためには、新しい市場の開拓や新規事業への挑戦は不可欠です。特に、事業承継のタイミングで後継者である子息や子女のために新しい事業部門を立ち上げる、といったケースも同族企業ではよく見られます。
しかし、その新規事業の目的や将来性、投資計画などが既存事業の社員に対して十分に説明されない場合、「社長がまた何か新しいことを始めたらしいが、自分たちが汗水流して稼いだお金が、よく分からない事業に注ぎ込まれているのではないか?」という疑念や不満が生じかねません。
特に、既存事業が苦しい中で不透明な投資が行われれば、社員のモチベーション低下は避けられないでしょう。このような状況を避けるためにも、なぜ今その新規事業に取り組むのか、既存事業との関連性、将来的なビジョンなどを丁寧に説明し、理解を求める姿勢が重要です。これは、以前の記事「会社のピンチ、社員にどこまで伝える?経営再建を全社一丸で成功させる情報開示の極意」でも触れた情報開示の重要性にも繋がります。
2. 度を越した社長の高級車や贅沢品 – 「私たちのお金で…」という社員の不公平感
社長が稼いだ利益でどのような消費活動を行うかは基本的に自由であり、経済の活性化という側面も否定できません。しかし、「社員がそのことをどう感じるか」という想像力を働かせることは、経営者として極めて重要です。
例えば、多くの社員が日々の生活に苦労している中で、社長だけが頻繁に社長の高級車を乗り換えたり、高価な腕時計やブランド品を身に着けていたりするのを見れば、社員が良い気持ちを抱かないことは容易に想像がつきます。
・「自分たちはこんなに切り詰めて生活しているのに、社長だけ贅沢しやがって!」
・「俺たちが稼いだ金で、社長は良い暮らしをしているのか!」
・「そんなお金があるなら、少しでも給料を上げてくれれば良いのに!」
社員は口には出さなくても、心の奥底ではこのように感じています。特に、会社の業績が芳しくない時期や、賞与がカットされるような状況下での社長の派手な消費行動は、「放漫経営」と見なされ、社員の不信感を決定的なものにしてしまうでしょう。
3. SNSでの派手な私生活アピール – 「この投稿、社員はどう思う?」という想像力の欠如
現代において、SNSは企業の広報活動や社長個人のブランディング、営業活動において非常に有効なツールです。私も情報発信の手段として活用しています。
しかし、その手軽さゆえに、投稿内容には細心の注意が必要です。なぜなら、社長のSNSアカウントを多くの社員もフォローし、その投稿内容を日常的に見ているからです。「この投稿を、社員が見たらどう思うだろうか?」という想像力を持つことが、SNSを利用する上で不可欠です。
例えば、社長が連日のように高級レストランでの会食や海外旅行、ブランド品の購入といった華やかな私生活をSNSに投稿していたら、それを見ている社員は複雑な気持ちになるかもしれません。特に、社員がコスト削減や長時間労働を強いられている状況であれば、その投稿は社員の神経を逆なでし、不満や不信感を増大させるだけでしょう。最新情勢として、社長の不適切なSNS投稿が原因で炎上し、企業全体のブランドイメージを著しく損なうケースも後を絶ちません。
社長だけ贅沢している、会社が放漫経営に陥っている、といった社員の不満や不信感が長期的に蓄積されると、それは静かに会社を蝕んでいきます。
世間では、正当性のない内部告発や不祥事のリークによって、企業の社会的信用が一夜にして失墜する事件が後を絶ちません。全てがそうだとは言いませんが、こうした行動の背景には、「社長を引きずり下ろしてやりたい」「この会社にいても未来はない」といった、社員の強い憤りや絶望感が隠れている場合があります。
このような状況は、もはや単なるモチベーションの低下ではなく、社員 離反の中でも特に深刻な形態と言えます。そして、その根本的な原因が、日頃の社長自身の言動にある可能性も否定できません。一度、ご自身の行動を客観的に振り返ってみる必要があるかもしれません。
「なぜ、経営者である自分が社員にそこまで気を遣う必要があるのか?」と思われる社長もいらっしゃるかもしれません。
その答えは明快です。社員こそが、会社にとって最も大切な利害関係者(ステークホルダー)の一人だからです。
もちろん、売上をもたらしてくれる顧客も極めて重要です。しかし、考えてみてください。自社や社長に対して不満や不信感を抱いている社員が、心から顧客に満足度の高いサービスを提供できるでしょうか?答えは「否」でしょう。
「会社が好きで、社長を尊敬していて、この仕事に誇りを持っている」。そう感じている社員だからこそ、自発的に顧客のために質の高いサービスを提供しようと努力するのです。つまり、社員満足度(ES)なくして、真の顧客満足度(CS)は実現し得ないのです。社員を大切にせず、社長だけ贅沢を続けるような放漫経営では、いずれ顧客の心も離れていってしまうでしょう。
もちろん、全ての社員が模範的であるとは限りません。中には、残念ながら問題のある社員も存在するでしょう。
しかし、大多数の社員は、あなたの会社に何らかの魅力や期待を感じて入社してきたはずです。その社員たちとの絆を深め、信頼関係を構築するためには、地道な意思疎通を図っていく以外に方法はありません。
・社員が日々の業務でどのようなことを感じ、何を考えているのか?
・将来に対して、どのような夢やキャリアプランを描いているのか?
・どのようなスキルを高め、どのような仕事に挑戦したいと思っているのか?
・その社員の成長に対して、社長であるあなたが具体的に何ができるのか?
このような事柄について、定期的に1on1ミーティングの機会を設けたり、匿名性を担保した社員アンケートを実施したりするなどして、社員の声に真摯に耳を傾けるのです。顧客に接するのと同じように、社員一人ひとりに関心を持つことが第一歩です。そして、社員の会社への貢献に対しては、昇給や賞与、あるいは昇進といった目に見える形で正当に報いることが、モチベーションを維持・向上させる上で不可欠です。
経営を行っていれば、業績が厳しくなり、コストカットやリストラといった痛みを伴う決断を迫られる時期も必ず訪れます。そのような厳しい局面で社員に協力を求めるのであれば、その前にまず社長であるあなたがやるべきことがあります。
それは、社長自身の「身を切る覚悟」を具体的な行動で示すことです。例えば、役員報酬を大幅にカットする、個人的な経費支出を徹底的に見直す、保有している社長の高級車を売却するなど、社長が率先して範を示すのです。その真摯な姿勢を社員は見ています。社長の「会社を何としても立て直す」という強い気持ちと覚悟が伝われば、社員 離反を防ぎ、会社一丸となって経営再建に取り組む道が開けるはずです。
【まとめ】「社長だけ贅沢」のレッテルを回避し、社員と共に成長する企業へ
本日は、「社長だけ贅沢」と見られがちな行動が会社にどのようなリスクをもたらすのか、そして社員との信頼関係をいかに築いていくべきかについてお話ししました。
・社長の日常的な言動は、社員のモチベーションや会社への信頼感を大きく左右する。
・不透明な新規事業投資、度を越した社長の高級車や贅沢、SNSでの派手な私生活アピールなどは、社員の不満や不信感を招き、「放漫経営」と見なされるリスクがある。
・これらの不満が蓄積すると、内部告発や深刻な社員 離反に繋がる可能性がある。
・真の顧客満足は社員満足から生まれる。社員を大切にすることが、企業の持続的成長の基盤となる。
・社員の声に耳を傾け、貢献に報い、困難な時期には社長自らが範を示すことで、強固な信頼関係が築かれる。
社長は、常に社員からの視線を意識し、公平性・透明性のある経営を心掛ける必要があります。一朝一夕に築けるものではありませんが、日々の真摯なコミュニケーションと、特に困難な時期における社長の率先垂範こそが、社員との揺るぎない信頼関係を育み、会社を更なる成長へと導く原動力となるのです。
この記事が、あなたの会社と社員双方にとってより良い未来を築くための一助となれば幸いです。
「社員との関係がギクシャクしている気がする」「自分の行動が社員にどう見られているか客観的に知りたい」「社員エンゲージメントを高めるための具体的なアドバイスが欲しい」
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