銀行員時代から現在のコンサル事業に至るまで25年間、中小企業の財務対応について接してきた。銀行時代は資金提供側として、コンサルになってからは経営者の支援者として。
財務対応のまずさで、資金調達や資金繰りに悪影響を及ぼし、結果、経営が厳しくなるケースを多々見てきた。
その多くが、経営者の財務知識の不足に起因している。経営者であれば、財務や計数に関する基本的な事は押さえておきたい。経理担当者や税理士任せの経営者は、どこかで痛い目を見る。最終的に経営責任をとるのは経営者だし、外部の色々な意見に耳を傾けながらも、決断したり、行動するのは経営者自身だ。我々コンサルだって、助言者に過ぎない。
今回から何回かに渡り、私が日々感じている疑問に思う財務対応について、お話してみたい。頭の片隅に置いておくと良いかもしれない。
第1回目は、役員報酬の財務対応について考えてみたい。
法人化している中小企業の役員報酬は、経営者にとって「自分の働きに応じて支給される給料」だ。当然気になるし、「たくさんもらいたい」と思うだろう。そのために自分でリスクを負って、事業をしているのだから。
不思議なもので、法人化すれば、「会社と自分は別物」のような感覚に陥ってしまうことがある。制度上はそうであるが、中小・零細企業の場合は、実態は法人と経営者個人は、一体の場合が多い。
そのような背景の中では、自社の力で安定したものではなく、たまたま好業績が出た場合(特に何年か連続で!)など、役員報酬を上げる傾向にある。好業績がでると、法人税負担も増加するために、それならいっそ経費処理できる役員報酬を上げよう、となる。周りから、「役員報酬上げたらどうですか?」助言してくる人もいるかもしれないし、経営者自身もその気になる。
【参考記事】中小企業と役員報酬 ~役員報酬の決め方、変更の手順~
しかし、役員報酬を上げてその後、外部環境の変化や、競合の存在で、業績が悪化局面に入ってしまう。すると、上げてしまった役員報酬が負担になり、損益計算書上の利益が圧迫され、赤字になる。
1期赤字が出たからと言って、一度上げた役員報酬を即下げる経営者は、あまりいない。その後ズルズルとその役員報酬で数年経過する。そして下げるのは、どうしようもなくなった何年か後だ。その間赤字は累積するし、「好業績の時の高い役員報酬を基準とした社会保険料の支払い」も収益を圧迫する。
業績が厳しいということは、資金繰りも厳しくなる。高額な役員報酬を支払う財源もないので、未払費用として計上するか、一旦支払った形にして即会社に戻す。(こうした処理は、役員借入金として負債勘定に計上される)。これでは何をしているのか分からない。
経営者の気持ちの中には、自身が会社に貸し付けている資金や未払いの役員報酬は、「好調になったら会社から返してもらおう」という気持ちがある。(これが次回お話しする「役員借入金を銀行借入金で組み替える」につながる)。
上記は、「業績と役員報酬のアンマッチ」である。経営者の財務知識の不足と報酬に対する執着心に起因している。
これを防ぐには、「役員報酬を毎年見直し、実情にあった支給額とする」ことだ。そして、新しい期の役員報酬の支給基準は、前年度の実績ではなく、今年度の業績予想から導き出されるべきではないか、と私は考えるのだ。そのために経営計画(今後の業績予想)は、常に作成し、状況に合わせて更新していく必要があるのではないか、と思う。
次回は、「役員借入金を銀行借入金で借り換える」について、お話したい。
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