「今年は赤字になると銀行の印象が悪いから、少し調整しておきましょう」と税理士から言われた。
「在庫を多めに見積もる」「減価償却を見送る」といった処理をしているが、銀行に分かるのだろうか。
「もし決算書の実態が知られたら、今後の融資はどうなるのか」と不安を抱えている。
資金繰りが厳しいときほど、決算書を少しでも良く見せたいという誘惑は強くなります。しかし、実態と異なる利益を意図的につくり、その決算書を銀行の融資判断に使わせる行為は、単なる「お化粧」では済みません。
和田経営相談事務所の見解は明確です。「税金を少なくしていないから問題ない」という説明は、銀行には通用しません。意図的な利益の水増しは、銀行の審査目線では融資判断を誤らせる粉飾であり、会社の信用と資金調達力を一度に失わせかねない重大な行為です。
ただし、粉飾決算が直ちに刑法上の詐欺罪になるか、既存融資の一括返済まで求められるかは、行為の内容、意図、融資との因果関係、契約条項などによって異なります。この記事では、過度に不安をあおらず、経営者と税理士が知っておくべき銀行実務上の影響、責任、発覚時の対応を整理します。
税理士の中心業務は、税務代理、税務書類の作成、税務相談です。一方、銀行は、融資した資金を将来返済してもらえるかを判断するために決算書を使います。
この立場の違いを理解しないまま、「税務署に指摘されにくい処理なら、銀行にも問題はない」と考えることが、危険なすれ違いの出発点です。
利益を水増しすれば、当期の税額が増えることはあります。しかし、それだけで会計処理が適正になるわけではありません。事実と異なる在庫、売掛金、売上などを計上すれば、会社の財産や収益の実態を正しく示さない決算書になります。
税理士についても、故意または相当の注意を怠って真正の事実に反する税務書類を作成した場合などは、税理士法上の懲戒の対象になり得ます。したがって、「脱税でなければ、税理士が責任を問われることはない」とも言い切れません。
銀行が確認するのは、表示された最終利益だけではありません。本業で生み出すキャッシュフロー、売掛金の回収状況、在庫の換金性、借入金の返済負担などを組み合わせ、実質的な返済能力を見ます。
意図的に数字を変えた決算書は、その判断の土台を崩します。銀行にとって問題なのは、金額の大小だけでなく、「会社が重要な事実を隠し、審査を誤らせようとしたのか」という信頼の問題です。
決算では、在庫の評価、貸倒れの見積り、減価償却など、一定の判断を伴う処理があります。複数の適法・妥当な選択肢から、会社の実態に合う方法を選ぶことまで粉飾になるわけではありません。
問題になるのは、赤字を隠して融資を受けやすくするなどの目的で、事実や合理的な見積りから離れた数字を意図的に計上することです。
判断に迷ったら、「その処理は、融資の予定がなくても同じように行うか」と問い直してください。
銀行に見せる利益をつくるためだけに処理を変えるのであれば、立ち止まるべき強い警告サインです。
銀行員は、1期分の損益計算書だけを見て審査するわけではありません。複数年の貸借対照表、損益計算書、試算表、勘定科目内訳明細書、資金繰り、預金口座の動き、経営者への聞き取りなどを照合します。
金融庁が2025年に公表した「金融機関における粉飾等予兆管理態勢の高度化に向けたモニタリングレポート」でも、金融機関が売上高・利益・キャッシュフロー・資産負債の推移、売上債権の回転期間、情報開示の遅れなどを確認していることが示されています。
個々の項目に当てはまるだけで粉飾と決まるわけではありません。しかし、合理的な説明や裏付け資料がなければ、銀行は実態把握を深めます。現在は金融機関によって、粉飾懸念先の抽出にAIや自動検知を試行する動きもあります。
詳しい見抜き方は、関連記事「粉飾決算を銀行はこう見抜く!」でも解説しています。
粉飾が疑われたからといって、すべての会社へ同じ対応が直ちに行われるわけではありません。ただし、銀行との信頼関係と資金繰りに深刻な影響が及ぶ可能性があります。
金融庁の2025年レポートには、粉飾の疑念を抱いた多数の金融機関から一括返済を求められ、資金繰りが逼迫して民事再生に至った事例も掲載されています。小さな利益操作から始まっても、翌期に元へ戻せず、さらに大きな操作を重ねる構造が最も危険です。
粉飾の最大の損失は、数字を修正されることではありません。「この会社が出す情報は信用できない」と判断され、金融支援の前提を失うことです。
株式会社には、各事業年度の計算書類を作成する義務があります。顧問税理士が記帳や決算を支援していても、会社が内容を確認し、銀行へ提出する責任まで税理士へ移るわけではありません。
経営者は、在庫の実在、売掛金の回収可能性、未計上債務など、会社内部にしか分からない情報を把握する立場です。「税理士に任せていたので知らなかった」という説明だけでは、銀行の信頼を回復できません。
税理士の責任は、依頼内容、契約範囲、事実の認識、処理への関与、故意・過失などによって異なります。真正の事実に反する税務書類の作成には、税理士法上の懲戒が問題となり得ます。さらに、具体的な関与の仕方によっては、民事上・刑事上の責任が検討される場合もあります。
反対に、会社が税理士へ事実を隠していた場合や、税理士が適切な資料提出を求めても会社が応じなかった場合まで、税理士が当然に全責任を負うわけではありません。
経営者と税理士の双方に必要なのは、口頭の「調整」で済ませないことです。
処理の根拠、金額、証拠資料、会社の判断を記録し、銀行へ説明しても耐えられる決算書をつくることが、双方を守ります。
疑わしい処理に気づいたとき、最も避けるべきなのは、別の科目へ振り替えたり新たな売上をつくったりして隠すことです。まず事実を確定し、影響額と対象期間を把握します。
銀行への説明は、事実を小出しにせず、「何が起きたか」「正しい実態はどうか」「再発をどう防ぐか」「返済をどう続けるか」を一つの計画として示すことが重要です。自主的な説明が必ず有利になるとは限りませんが、隠蔽を重ねて後から発覚するより、信頼回復へ向けた出発点をつくりやすくなります。
当事務所の「AI経営参謀」も、ぜひ気軽にお試しください。
決算書に表れた財務上の懸念や借入余力を整理したいときは、画面右下の「AI経営参謀に聞く(無料)」から質問できます。なお、粉飾の法的判断や訂正手続はAIだけで決めず、必ず税理士・公認会計士・弁護士などへ確認してください。
粉飾を防ぐ仕組みは、決算直前ではなく毎月の管理からつくります。特に、在庫、売掛金、仮払金、役員貸付金、借入金は、残高だけでなく中身まで確認する必要があります。
税理士に求められるのは、経営者の希望する利益をつくることではありません。数字の意味とリスクを説明し、できないことは明確に断り、適正な決算と改善策へ導くことです。経営者にとっても、耳の痛い指摘をする専門家こそ、会社を守るパートナーになり得ます。
「税務上は問題ないから」という理由で利益を水増ししても、銀行審査上の問題は消えません。意図的に実態を歪めた決算書を融資判断に使わせれば、銀行からは重大な背信行為と見られます。
発覚後の対応は一律ではありませんが、新規融資の停止、実態修正、追加資料や担保の要求、契約内容によっては一括返済請求など、会社の存続を左右する事態へ発展する可能性があります。
赤字であること自体よりも、赤字を隠して説明を避けることの方が、銀行との関係を深く傷つけます。経営者と税理士が選ぶべき道は、数字を良く見せることではなく、実態を正しく把握し、改善計画と返済見通しを示すことです。
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