経営再建計画書における「アクションプランと数値計画」の策定は、再生への具体的な道のりを描く重要なプロセスです。前回解説した「減価償却費と設備投資計画」に続き、今回は損益計算書(PL)上の主要な固定費である**「リース料」と「人件費」**の計画策定に焦点を当てます。
これらの費用項目は金額的にもインパクトが大きく、その計画精度が経営再建計画全体の信頼性、ひいては金融機関からの評価を大きく左右します。根拠に基づいた詳細な計画を作成するための具体的な手順と注意点を、経営者、従業員、金融関係者など幅広い読者に向けて解説します。
【目次】
リース料と人件費は、多くの企業にとって固定費の大部分を占めます。これらの計画策定において、「過去の実績がこうだったから、今後も同程度だろう」といった安易な「実績横並び」で数値を設定することは、計画の信頼性を著しく損なうため絶対に避けなければなりません。
・PL計画への影響大: これらの費用は損益計算書(PL)上の利益を大きく左右します。不正確な計画は、利益予測のずれに直結します。
・CF計画への影響大: 実際の支払額であるため、キャッシュフロー(CF)計画にも直接影響します。特にリース料は契約期間中の支払いが確定している場合が多く、人件費も簡単には変動させられない性質があります。
・根拠の明確化: 金融機関は、これらの主要な費用項目について、計画数値の算出根拠を重視します。詳細な計画があって初めて、経営再建計画書全体の合理性・実現可能性が担保されます。
・事業デューデリとの連携: これらの計画作成には、事業デューデリの段階で、個別のリース契約内容や部門別人件費の詳細を正確に把握しておくことが不可欠です。
車両、OA機器、設備など、リースを利用している企業は少なくありません。リース料の計画は、以下の手順で正確に行う必要があります。
「実績横並び」の危険性:根拠ある計画のために
リース契約は、個別に契約期間や月額支払額が定められています。計画期間中に契約が終了する物件もあれば、新たに契約する物件もあるかもしれません。そのため、「過去1年間の支払総額」だけを見て将来の計画値を設定すると、実際の支払額と大きく乖離する可能性があります。必ず個別のリース契約内容に基づいて計画を作成します。
フォーマット活用:個別契約内容(支払額、期間)の管理
下図でで示されているような一覧表形式のフォーマットを活用すると、多数のリース契約を効率的に管理し、計画を作成できます(クリックで拡大します)。
・行(縦軸): 個別のリース物件をリストアップします。(例:コピー機A、営業車B、〇〇設備C)
・列(横軸):
・契約情報(リース会社、契約開始日、契約終了日、月額リース料など)
・計画0年目(当期)~計画X年目: 各年度の月別の支払額(または年額)を、契約期間に合わせて記載します。
・年度別合計: 各年度のリース料支払総額を集計します。
このフォーマットを使えば、どのリース物件がいつまで支払いが続き、計画期間中の各年度で合計いくらのリース料が発生するのかが一目瞭然になります。
作成手順とPL計画への転記
1. 事業デューデリで収集したリース契約書やリース料支払明細に基づき、上記フォーマットに情報を転記します。
2. 各年度のリース料支払合計額を算出します。
3. 算出した年度別合計額を、後ほど作成する**PL計画(損益計算書計画)**の「リース料」勘定(販管費または製造原価)に転記します。※会計処理によっては「減価償却費」となる場合あり(後述)。
注意点①:消費税処理の統一
自社の決算処理が消費税抜方式か税込方式かを確認し、リース支払計画及びPL計画への転記においても、消費税の処理方法を統一します。
注意点②:会計処理(資産計上 vs 費用処理)とPL/BSへの影響
リース契約は、その内容によって会計処理が異なります。
・ファイナンス・リース(所有権移転外ファイナンス・リースで一定の重要性がない場合を除く): 原則として、リース資産とリース債務をBS(貸借対照表)に計上し、リース資産は減価償却を行います。この場合、PL計画には「リース料」ではなく**「減価償却費」**として計上され、支払利息相当額も計上されます。
・オペレーティング・リース: 賃貸借処理と同様に、支払ったリース料を**PL上の「リース料」**として費用計上します。
自社のリース物件がどちらの処理を行っているか(または行うべきか)を確認し、PL計画上の適切な勘定科目に計上する必要があります。特に、過去に多額のリース契約を結び、それがオフバランス(BSに計上されない)処理されていても、実態バランスシート上では実質的な負債として認識されるべき場合があります。リース負担の実態を正確に把握することが重要です。
[関連情報:リース会計基準の概要(公益財団法人リース事業協会)]
[関連情報:実態バランスシート作成におけるリース債務の扱い(公益財団法人リース事業協会)]
人件費は、多くの企業にとって最大のコスト項目であり、かつ経営戦略と密接に結びつく重要な要素です。リース料と同様、「実績横並び」は避け、戦略的な視点から計画を策定する必要があります。
「実績横並び」からの脱却:部門別など詳細計画の必要性
会社全体の過去の人件費総額だけを見て将来計画を立てるのではなく、「部門別」「拠点別」「役職別」など、自社の管理単位に合わせて詳細な人件費計画を作成することが極めて重要です。これにより、以下のメリットが得られます。
・部門別損益管理の精度向上: どの部門にどれだけの人件費がかかっているかを正確に把握でき、部門ごとの収益性評価や改善策の検討に役立ちます。
・アクションプランとの連動性向上: 人員配置の変更、採用・抑制、組織再編といった人事戦略と人件費計画を具体的に結びつけることができます。
フォーマット活用:部門別人件費の把握と計画
下図で示されているようなフォーマットは、部門別などの詳細な人件費計画を作成するのに役立ちます。
・行(縦軸): 部門、拠点、役職などの区分を設けます。
・列(横軸):
・区分ごとの人員数(計画)
・区分ごとの平均給与(または総額)
・計画0年目(当期)~計画X年目: 各年度の区分別人件費(役員報酬、給与手当、賞与など)を計画に基づいて記載します。
・年度別合計: 各年度の人件費総額(区分合計)を集計します。
このフォーマットに、部門ごとの将来の人員計画や昇給・賞与の見込みなどを反映させることで、計画期間中の人件費総額とその内訳を具体的に算出できます。
法定福利費の計算と計画への反映
人件費には、給与や賞与だけでなく、会社が負担する法定福利費(社会保険料、労働保険料の会社負担分)も含まれます。これを計画から漏らしてはいけません。
過去の実績から、法定福利費 ÷ (役員報酬+給与手当+賞与+雑給などの人件費本体) = 法定福利費率(例:約15%前後) を算出し、計画上の人件費本体額にこの比率を乗じて、各年度の法定福利費を見積もり、人件費総額に加算します。
アクションプランとの強力な連携
人件費計画は、事業デューデリで抽出された人事・組織面の課題解決に向けたアクションプランと不可分一体です。
・役員報酬の見直し: 経営責任の明確化、コスト削減のため。
・人員配置の最適化: 成長部門への人員シフト、不採算部門からの人員削減(退職不補充など)。
・採用計画: 事業拡大や専門人材確保のための新規採用。
・賃上げ・処遇改善: 従業員のモチベーション向上、人材定着のための原資確保。
・組織再編: 合併や部門統合に伴う人員数の変動。
これらのアクションプランが人件費計画に具体的に反映されている必要があります。
PL計画への転記と部門別損益管理への活用
フォーマットで算出した**年度別人件費総額(法定福利費含む)**は、PL計画の「役員報酬」「給料手当」「賞与」「法定福利費」などの勘定(販管費または製造原価)に転記されます。また、部門別に作成した計画は、部門別PL計画の基礎データとなります。
経営再建計画書を金融機関に提出する際、人件費の中でも特に**「役員報酬」**の金額とその妥当性は厳しくチェックされます。
なぜ金融機関は役員報酬を重視するのか?(経営再建計画書 金融機関)
金融機関が役員報酬に注目するのは、それが経営者の経営責任の取り方や経営再建への本気度を示すバロメーターと見なされるためです。経営不振に陥った責任の一端は経営者にあると考えられており、その経営者が自身の報酬をどの程度見直し、痛みを分かち合おうとしているかは、計画全体の信頼性を左右する重要な要素となります。特に、金融支援(リスケジュールなど)を要請する状況では、この点は避けて通れません。
適切な役員報酬額の設定:多角的な視点
ただし、役員報酬は単純に低ければ良いというものでもありません。以下の点を総合的に考慮し、金融機関にも説明可能な、合理的で持続可能な水準を設定する必要があります。
・役員の生活維持: 家族構成、最低限必要な生活費、住宅ローン・教育ローン等の返済。
・過去の支給実績と業務負担: これまでの貢献度や現在の職責の重さ。
・会社の状況: 事業規模、財務状況の深刻度。
・借入金返済計画との整合性: 役員報酬を含めたキャッシュフローで、計画通りに返済が進むか。
あまりに低い報酬設定は、役員のモチベーション低下を招いたり、生活のために会社から不透明な資金流出(役員貸付金の増加など)を引き起こしたりするリスクもあります。
低すぎる報酬のリスクと計画期間中の変更について
経営者の生活が成り立たないほどの報酬カットは、かえって経営再建の障害となる可能性も認識しておくべきです。一方で、一度経営再建計画書で合意された役員報酬を、計画期間中に業績が上向いたからといって増額修正することには、金融機関は通常、難色を示します。(逆に、業績下振れによる減額は受け入れられやすい)。当初の計画策定段階で慎重な検討が必要です。
リース支払計画や人件費計画を含む詳細な数値計画の策定は、専門的な知識も要求されます。自社だけでの対応が難しい場合は、以下の活用も検討しましょう。
中小企業活性化協議会や経営改善計画策定支援事業(405事業)の活用
中小企業活性化協議会では、経営再建計画策定に関する専門家(税理士、公認会計士、中小企業診断士など)の支援を受けることができます。また、経営改善計画策定支援事業(405事業)を利用すれば、計画策定にかかる専門家費用の一部補助を受けられます。これらの支援制度を利用する際にも、本記事で解説したような根拠のある詳細な計画が求められます。
[関連情報:中小企業活性化協議会の支援内容]
[関連情報:経営改善計画策定支援事業(405事業)の詳細]
経営再建計画書 書き方とサンプル・テンプレート利用の留意点
**「経営再建計画書 書き方」**に関する情報や、サンプル・テンプレートはインターネット上でも見つけることができます。しかし、それらはあくまで参考資料であり、自社の事業デューデリの結果や実態に合わせて、オーダーメイドで作成することが最も重要です。特に数値計画部分は、テンプレートの数値をそのまま使うのではなく、自社の状況に合わせて一つ一つ積み上げていく必要があります。
リース支払計画と人件費計画は、経営再建計画書における数値計画の根幹をなす重要なパートです。
・「実績横並び」ではなく、個別の契約内容や戦略に基づいた詳細な計画を作成する。
・事業デューデリで把握した情報を最大限に活用する。
・会計処理や法定福利費など、専門的な要素も正確に織り込む。
・アクションプランとの連動を常に意識する。
・特に役員報酬については、金融機関の視点も踏まえ、合理的で説明可能な水準を設定する。
これらのポイントを押さえた根拠のある詳細な計画を作成することが、経営再建計画書全体の信頼性を高め、経営再建の実行力を確かなものにします。
次回は、「計画0年目 着地見込みの作り方」について解説していきます。
コメントはこちらから☟