【この記事で分かること】
※記事の最後に、一覧表でポイントをまとめています。
・ 減価償却とは何か
・ 経営者が減価償却を理解できない理由
・ 減価償却不足とは何か、発生理由と見つけ方
・ 減価償却と経営の関係について
【減価償却について、あなたに伝えたいこと】
経営者のあなたが、減価償却のことを理解できないのは、減価償却が目に見えないからだ。
減価償却の決算勘定科目「減価償却費」。通帳をいくら眺めても、どこにも載っていない。
水道光熱費や家賃など通常経費は、通帳から引き落とされたり、こちらが振り込んだりして、目に見える。
しかし「減価償却費」は、通帳のどこにも現れない。
だから気づくのは、年に一度、決算書が手元に届いたとき。
「減価償却費?」。多額の経費だが、これは何?となる。
「減価償却費」。設備を購入したり、建物を立てたりしたときに、現金で一括で支払いされている。
現金としては1年目に支払われるのに、税務上は複数年に渡り損益計算書で経費として処理される。
現金支出と経費処理。2つの時間軸がズレているので、分かりにくいのだ。
以下記事で、減価償却とは何か・取り扱いの注意点について、説明している。是非読み進めてほしい。
令和4年3月9日 中小企業診断士 和田健一
【目次】
減価償却。経営者にとって、よく耳にする言葉だと思うが、内容について正しく理解している経営者は案外少ない。
減価償却とは経費だ。そして簡単に言うと、『買ったときに一度に費用にしないで、毎年少しずつの費用に分ける』ということだ。
決算書には、「製造原価報告書」または「販売費及び一般管理費明細」の中に、勘定科目「減価償却費」として記載されている。
建物・機械設備・車両運搬具など「有形固定資産」を事業で使用して費用化する場合に、「減価償却費」は適用される。
例えば、生産性向上のため、機械設備を500万円で購入したとする。支払いは通常、買ったときつまり、1年目に500万円支払う。お金は500万円減った。ではお金が500万円減ったわけだから、1年目に経費として500万円落とすか、というとそうではない。
この機械が4年間使えるとすると、毎年125万円づつを4年間均等に経費として落とす(厳密に言えば、定率法などがあり、必ずしも均等額にならないが、その話はおいておく)。これが減価償却だ。
逆に4年間使う機械を1年で経費化すると、2年目からは機械が経費化せず、同じ機械を同じように使っているにも関わらず、利益が一定化しない。これでは実態がつかめず、経営に影響が出る。減価償却をすると、こういうことが起こらない。
税法上は設備種類ごとに、法定耐用年数(経費として落とせる期間)が決まっており、経費として落とせる年間の上限金額が決まっている。
中小企業はほとんど、この法定耐用年数に基づき、減価償却を行っている。法定耐用年数より、実際の償却期間が短い場合も多い。設備が陳腐化したり、業界の流行サイクルの方が、法定耐用年数より短く、そのサイクルに合わせて、自社なりの実態に見合った減価償却を別にしておくべきだ、という意見もある。正しい。
しかしながら、経営資源が豊富な大企業と違い、中小企業では2種類(税務用と自社管理用)の指標を作成、管理することが実務上難しい場合が多いため、このブログでは、減価償却=法定耐用年数でお話する。
減価償却不足額とは、税務上認められた減価償却費に達していない金額のことを言う。
例えば、ある資産の法定上限額が100万円のケース。
50万円しかしなければ、差額の50万円が減価償却不足額。
全くしなければ、差額の100万円が減価償却不足額となる。
税務上認められた「減価償却費」の計上を、経営者の意思決定によりパスすることで発生する。
通常は、上記で説明したように、耐用年数表を使い、個別資産ごとに減価償却費を計算する。
そして、その金額を減価償却費として経費計上することで、減価償却不足額は発生しない。
決算報告書の別表16「減価償却資産の償却額の計算に関する明細表」の「36」の部分に、償却不足額とある。下記の写真データの赤枠で囲んでいる部分が減価償却不足額だ。
ちなみに、個別資産ごとの減価償却費は、固定資産台帳に記載されている。顧問税理士事務所に依頼すればもらえる。
この台帳がなければ、減価償却費の計算はできない。
税理士事務所は、社長に細かく説明していないだけで、要請すれば提出してくれるだろう。
以下「固定資産台帳」のサンプルを掲載する。
この台帳には、個別減価償却資産に関する償却額、償却不足額、投資年月などが記載されており、目を通しておくと良い。
それでも実務上は、中小企業においてよく減価償却不足が発生する。なぜか?
理由は、減価償却費の計上が税務上は任意だから。つまり、してもしなくても、税務署からおとがめがない。
税務署が任意としているので、税理士もこの経費について柔軟に対応する。
そういうことだから、減価償却に関する意思決定の多くが、利益と関係している。
経営者のあなたは、顧問税理士に相談する。
「先生、今期赤字額が大きくなりそうです。赤字額が大きいと、銀行や取引先に対して見栄えが良くないのですが、どうすれば良いですかね?」
顧問税理士は言う。
「社長、減価償却費は税務上、してもしなくてもいいので、今期は減価償却をパスしておきますか?この利益で減価償却をフルにやってしまうと、赤字額がさらに大きくなるので」
こうして、減価償却をしない(減価償却不足)状況が発生するのだ。
上記で、減価償却不足額の探し方を説明した。
単年度の不足額は、その方法(別表16の「36」の部分を確認)で分かる。
減価償却不足が複数年に渡った場合、いくら不足額があるのか知りたい。その場合はどうすれば良いか。
複数年に渡る減価償却不足額合計を「減価償却不足累計額」という。
金額を知る方法は、地道に毎年の減価償却不足額を拾い出し加算するか、顧問税理士事務所にヒアリングするか、いずれかである。
減価償却不足累計額が分かれば、その金額を貸借対照表の左側、固定資産金額から減算してみる。
そうすると、実態の固定資産価額が導き出される。
貸借対対照表の左右の金額を同じにするため、減価償却不足累計額を貸借対照表右側の「純資産の部」から減算することになるため、財務内容は悪化する。
例を挙げて説明する。
以下、簿価に価値が2,000万円として記載されている機械設備。
毎年200万円、5年間に渡り、減価償却されていなかったケースを見てみよう。
減価償却不足累計額は、1,000万円となる。それが貸借対照表には、以下の様な影響をあたえる。
1,000万円赤字が隠れていたことにより、実際の純資産は1,000万円目減りする。資産の部合計も、1億円から9,000万円に1,000万円減少する。
税務署に修正申告するという意味ではなく、あくまで自分で実態をつかむために調査する。
銀行から、「減価償却不足累計額」を教えて下さい、と聞かれることもある。
銀行は、実態の数値を把握したいのだ。
経営者が減価償却をしない(償却不足の発生)という意思決定をするとき、メリットを考える。
おそらくあなたは、表面上は利益が増えるので、「決算内容を良くできた!」と安堵しているかもしれない。
あなたが感じているメリットは、銀行など外部には通用しない。
上記で説明した「別表16」を見れば、いくら償却不足があるか、一目瞭然だからだ。
「この会社は減価償却費で利益調整している」と判断され、マイナス評価になる。
そして以下で説明するが、経営判断を狂わせることにもなる。
経営者が減価償却をしない(またはしなくても気にしない)のは、減価償却費を経費と認識していないこととも関係する。
減価償却費は、損益計算書において他の経費と違い、現金支出を伴わない。
通帳から引き落とされないし、こちらから振り込みもしない。
他の経費、例えば、家賃、人件費、リース料、銀行利息、水道光熱費、、、。
すべて口座からお金が出ていく。
だから経費と認識できる。
しかし、減価償却費はお金が出ていかないので、経費としての実感がない。
では減価償却費は、いつお金が出ていったのか。
それは、初期投資のとき。
最初に設備投資をしたとき、一括で現金払いしているのだ。
会社の自己資金で支払ったのかもしれないし、銀行融資を充当したのかもしれない。
ただ、その金額は確実に使用している。
それを法定耐用年数に基づき、何年かに分けて経費化して、損益計算書から経費として引いているのだ。
つまり、現金が出た時期と、経費として処理している時期がズレている。
だから分かりにくい。
経営者は、「初期投資額を減価償却費として、複数年に渡って投資回収している」、と考えてみてはどうか。
逆に言えば、減価償却できないということは、投資回収が進んでいないとも言える。
私が良くないと感じるのは、利益を減価償却で調整しようとする姿勢だ(減価償却費の計上は税法上任意である)。減価償却をしないと経費が少なくなり、実際より多めに利益が残る。
税理士事務所から今年度は利益が厳しいので、「減価償却しないでおきますか」、と提案されることもある。経営者としては、「利益が赤字=銀行から借入が難しくなる」という意識があり、「ではそうしますか。」となることが多いが、これは誤解だ。銀行は、減価償却費での利益調整に関して、厳しい見方をするからだ。
このことについては、当ブログ「銀行は減価償却費の未計上をどうみているか」で詳しくお話しているので、参照いただきたい。
加えて経営者自身が、会社を管理する上でもマイナス面が多い。減価償却を未計上にすることで決算上、どのような影響が出るだろうか、考えてみると良い。
減価償却費の計上を見送ると、
①損益計算書上は、利益が実際より増える。適正償却しておくと払う必要のない法人税の支払いで、キャッシュアウトが発生して、資金繰りに影響が出る。そして何より経営者が会社の状態を勘違いしてしまう(実際は赤字なのに黒字と認識して、改善が遅れるなど)。
②貸借対照表上は、固定資産額が実際より多めに残ってしまう。結果、相手方の資本勘定が多く残り、自己資本の額が実際より多めに経営者の中で認識されてしまう。このことも経営者に意思決定を誤らせる要因になるかもしれない。
厳しくても歯を食いしばって、減価償却をし、会社の実態を正しくつかんでおく(少なくとも法定耐用年数ベースで)ことが、経営者の正しい姿勢ではなかろうかと思うのである。
それもこれも、経営者に悪気があるわけではなく、「減価償却に対して正しい認識をしていないこと」が原因であるように私は感じるのだ。
最後に、この記事でお話ししたことを下記表にまとめる。参考にしていただくと幸いだ。
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