製造業、建設業、運送業における経営再建計画書の策定において、収益性の根幹を揺るがす**「製造原価(完成工事原価・運送原価)」**の計画は、極めて重要な意味を持ちます。売上総利益(粗利)を直接左右するこのコスト項目をいかに適正に管理し、削減・効率化を図るかが、経営再建の成否を分けると言っても過言ではありません。
この記事では、対象となる業種の経営者、従業員、そして金融機関関係者など幅広い読者に向けて、経営再建計画書における「製造原価計画」の具体的な作成手順、重要な管理指標、注意すべきポイントを、フォーマット例も交えながら解説します。
【目次】
製造原価計画とは、製品の製造、工事の完成、または運送サービスの提供に直接かかるコスト(材料費、労務費、外注費、現場経費など)の将来計画を立てることです。これは通常、「製造原価報告書」「完成工事原価報告書」「運送原価報告書」といった財務諸表の構成要素となります。(※小売業やサービス業などには通常ありません)
経営再建においては、単に過去の数値を予測するだけでなく、事業デューデリの結果に基づき、どのコスト項目にメスを入れ、いかにして原価率を引き下げ、収益性を改善していくかという戦略的な計画が求められます。
精緻な製造原価計画を立てる以前に、そもそも自社の原価を正確に把握できていないケースが散見されます。
問題点①:製造原価報告書を作成していない
一部の企業では、製造原価(直接コスト)と販管費(間接コスト)を区分せず、すべての費用を販管費として処理している場合があります。これでは、製品別・工事別・案件別の正確な採算管理ができず、経営判断を誤る原因となります。
問題点②:製造原価と販管費の仕訳が不十分
製造原価報告書を作成していても、本来製造原価に含めるべき費用(例:工場や現場スタッフの人件費・法定福利費、工場設備の減価償却費やリース料、現場で使用する消耗品費、外注加工費など)が、販管費に紛れ込んでいるケースも少なくありません。
なぜ正確な把握が必要か?
正しい原価計算は、適正な価格設定、不採算事業・製品の見極め、コスト削減目標の設定など、あらゆる経営判断の基礎となります。また、経営再建計画書の信頼性を担保する上でも不可欠です。
事業デューデリでの検証と専門家(税理士等)への相談
自社の原価計算や仕訳ルールが適切かどうか、事業デューデリの段階で徹底的に検証する必要があります。必要であれば、顧問税理士や公認会計士などの専門家に相談し、正しい原価計算体制を構築することが、経営再建の第一歩となる場合もあります。
正確な原価把握ができたら、次に将来の計画を立てていきます。下図で示されているようなフォーマットを活用し、特に**「売上高比率」**を意識しながら計画を策定することが重要です(クリックで拡大します)。
フォーマットの構造解説
・行(縦軸): 製造原価の主要な構成要素を科目別に記載します。
・材料費(主要材料、補助材料、包装資材など)
・労務費(直接工賃金、間接工賃金、法定福利費など)
・外注費(外注加工費、外注運賃など)
・製造経費(減価償却費、リース料、水道光熱費、修繕費、地代家賃など)
列(横軸):
・前期実績
・0年目着地見込み
・計画1年目~計画X年目
・売上高比率: 各年度の各原価項目が売上高に占める割合(%)
・数値の根拠・アクションプラン: 計画値の算出根拠や関連する改善策
最重要ポイント:売上高比率での健全性チェック
製造原価計画において最も重要なのは、各原価項目を金額だけでなく「売上高に対する比率(原価率)」で常に確認・管理することです。
・収益構造の変化を把握: 売上高が増減しても、原価率が悪化していれば収益性は改善しません。比率を見ることで、コストコントロールが適切に行われているかを判断できます。
・目標設定の明確化: 事業デューデリにおける自社の過去実績分析や同業他社比較で明らかになった「目指すべき原価率水準」を計画に反映させます。例えば、「材料費率を〇%改善する」「労務費率を〇%以内に抑える」といった具体的な目標を設定します。
・異常値の早期発見: 特定の原価項目の比率が計画から乖離した場合、早期に原因を究明し対策を打つことができます。
(フォーマット例の⑫~⑯は、これらの重要な比率指標を示しています)
「数値の根拠」欄:アクションプランとの連携
フォーマットの「数値の根拠」欄には、「なぜこの計画値になるのか」を具体的に記述します。「仕入先の集約により材料費率〇%改善」「生産ライン効率化で労務費率〇%削減」「〇〇業務の内製化で外注費〇円削減」など、具体的なアクションプランと数値目標を必ずセットで記載します。
製造原価計画を策定する上で、特に注意すべき項目と、関連するアクションプランの例を以下に示します。
1. 材料費:
[チェックポイント] 売上高材料費率は適正か? 歩留まりは悪化していないか? 在庫管理は適切か?
[アクション例] 仕入先交渉・見直し、共同購入、設計変更による使用量削減、歩留まり改善活動、在庫削減。
2. 労務費:
[チェックポイント] 売上高労務費率は適正か? 生産性は低いままではないか? 残業は常態化していないか? 製造(現場)部門の役員報酬は含まれているか?
[アクション例] 生産性向上のための設備投資・工程改善、多能工化、人員配置の最適化、残業削減、賃上げ原資の確保。
3. 外注費:
[チェックポイント] 売上高外注費率は適正か? 外注単価は妥当か? 品質・納期管理はできているか? 内製化できる業務はないか? 逆に外注化した方が効率的な業務はないか?
[アクション例] 外注単価交渉、外注先の評価・見直し、内製化/外注化の戦略的判断、品質・納期管理体制の強化。
4. 賃借料(リース代含む):
[チェックポイント] 工場や現場で使用する設備・車両のリース契約内容は適切か? 遊休資産はないか?
[アクション例] リース契約の見直し、不要なリースの解約、遊休資産の処分。
5. 水道光熱費:
[チェックポイント] エネルギー価格の動向は反映されているか? 省エネの取り組みは十分か? 設備の稼働状況に見合った費用か?
[アクション例] 省エネ設備の導入、デマンド監視、生産計画と連動したエネルギー使用の最適化。
6. 修繕費:
[チェックポイント] 突発的な高額修繕が発生するリスクはないか? 予防保全は計画的に行われているか?
[アクション例] 設備の老朽度診断、計画的なメンテナンス・オーバーホールの実施、予防保全体制の構築。
7. 減価償却費:
[チェックポイント] 製造関連設備の償却は適切に行われているか? 販管費との按分は正しいか?
[アクション例] 固定資産台帳の整備、適切な償却計算ルールの適用。
8. 地代家賃:
[チェックポイント] 工場や資材置き場等の賃料は適正か? 不要なスペースはないか? 親族等への支払いは妥当か?
[アクション例] 賃料交渉、スペースの効率的利用、不要な賃借物件の解約。
これらの見直しを行う際には、実態バランスシート上の在庫評価や固定資産評価への影響も考慮に入れる必要があります。
金融機関は、経営再建計画書において、製造原価計画(特に原価率の改善計画)を重視します。なぜなら、原価率の改善は、企業の自助努力による収益力回復の最も直接的な証左となるからです。
材料費、労務費、外注費、経費のそれぞれについて、具体的な削減策(アクションプラン)と、それが原価率改善にどう繋がるのかを、根拠を持って説明できる計画は、金融機関からの信頼を得やすく、計画全体の説得力を高めます。
製造原価の分析や削減策の立案、計画策定には専門的な知見が求められる場合があります。
中小企業活性化協議会や経営改善計画策定支援事業(405事業)の活用
中小企業活性化協議会では、製造原価管理に詳しい専門家(税理士、会計士、中小企業診断士など)による診断や計画策定支援を受けることが可能です。生産性改善に関するアドバイスも期待できます。また、**経営改善計画策定支援事業(405事業)**を利用すれば、これらの専門家への費用負担を軽減しつつ、質の高い計画を作成することができます。
[関連情報:中小企業活性化協議会による専門家派遣]
[関連情報:経営改善計画策定支援事業(405事業)を活用した原価改善]
経営再建計画書 書き方とサンプル・テンプレート利用の留意点
「経営再建計画書 書き方」やサンプル・テンプレートを参考にする場合でも、製造原価計画の部分は、自社の業種特性、製品・サービス、生産プロセス、事業デューデリの結果を反映させた、完全にオリジナルの内容にする必要があります。テンプレートの数値を鵜呑みにせず、自社の実態に基づいた計画を作成しましょう。
製造業・建設業・運送業にとって、製造原価計画は経営再建計画の成否を左右する最重要課題の一つです。
・正確な原価計算体制を構築し、自社のコスト構造を正しく把握する。
・売上高比率(原価率)を常に意識し、具体的な改善目標を設定する。
・事業デューデリの結果に基づき、各原価項目について具体的なアクションプランを策定し、計画に落とし込む。
・金融機関等のステークホルダーに、根拠を持って説明できる計画を作成する。
精緻な製造原価計画を作成し、着実に実行していくことが、厳しい競争環境を勝ち抜き、**「儲かる体質」**へと転換するための確かな道筋となるでしょう。
次回は、「PL計画(損益計算書計画)」の作成ポイントについて解説していきます。
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