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銀行員とノルマの関係 ~カードローン、口座開設、融資などの営業目標~

ノルマが原因で問題融資

多くの会社にノルマがあるように、銀行員もノルマを抱えています。

政府系金融機関にもノルマがあります。

記憶に新しい、商工中金の不正融資問題。

原因は、各店舗に割り当てられた「危機対応融資」の獲得目標(ノルマ)にあると言われています。

 

民間銀行営業担当者のノルマは、政府系の比じゃない!

政府系でもあるのですから、上場企業である民間銀行の営業担当者は、多くのノルマを抱えて活動しています。第一線の営業担当者各々のノルマ獲得の積み上げが、銀行全体の収益になるのです。

預金残高、融資残高、保証協会付融資、新規融資先開拓、給与振込口座、年金受取口座、NISA口座、カードローン口座、住宅ローン(アパートローン含む)、消費性ローン、投資信託獲得額、生命保険獲得額、クレジットカード、公共料金引き落とし、確定拠出型年金・・・。などなど。上げればきりがありません。

こんなに多くの目標を抱えて活動している営業担当者。どうしても優先事項は、顧客のことより、「いかに自分のノルマを獲得するか」になってしまいます。

 

ノルマの種類

銀行により色々種類は違うと思いますが、通常営業担当者が課せられているノルマとは、以下の様なのものです。

①法人新規開拓先数

新たに融資開拓した法人先数。新規融資はリスクがあるため、保証協会付融資などが推進される。

②保証協会付融資額

保証協会付の融資を新規でどれだけ獲得できるか。コロナ対策融資など制度融資は、銀行間で融資先の奪い合いになる。

③投資信託獲得金額

法人及び個人に対して、投資信託をどれだけ販売できたか。販売額に対して商品開発元の証券会社などから銀行に販売手数料が入るため、手数料獲得手段として重視される。

④生命保険販売額

個人に対して生命保険をどれだけ販売できたか。販売額に対して商品開発元の保険会社などから銀行に販売手数料が入るため、手数料獲得手段として重視される。

⑤給与振込口座

取引先企業の新入社員など、給与振込口座の獲得数。3月、4月はこのノルマ獲得に忙しくなる。給与口座を獲得できれば、その後の住宅ローン、教育ローン、カーローン、公共料金引き落とし、学費引き落とし、など生涯取引につながるため、重要な項目。

⑥年金受取口座

高齢者の年金受取口座の獲得。初めて受給開始する口座獲得は「新規裁定」、既に受給を受けている口座を他銀行から変更する場合は、「変更」という。年金受給者は預金残高が多い傾向にあり、口座獲得は重要視される。

⑦住宅ローン獲得額

個人向けで最も金額が大きくなる融資であり、生涯取引が期待できる。融資金額によるが、生涯で数百万円の利息収入が得られる。近年は低金利情勢で収益貢献が少ないが、担保付きであること、延滞率が低いこと、保証会社の保証付きであることなどから、貸し倒れリスクが少ないため、強力に推進。住宅メーカー、不動産業者などと連携し、住宅ローンを獲得する。

⑧カードローン獲得口座数

小口ではあるが利息が高く(10%前後)、収益貢献が大きい商品。保証会社を付けているため銀行に貸し倒れリスクは少ない。近年はネット経由での申し込みも増えている。

⑨クレジットカート獲得数

多くの銀行が子会社にクレジット部門を抱えており、連結決算をしている関係で、親会社の銀行員がノルマとして、獲得活動を請け負うことが多い。

⑩手数料獲得額

法人担当者なら手数料獲得額のノルマがある。М&A、補助金申請書作成代行、私募債発行、人材紹介、ビジネスマッチング、海外展開支援、仕組債販売、など様々な手法により、手数料を獲得する。またコンサル会社や人材会社に融資先を紹介し、それらの業者から紹介手数料を取ることもある。

その他、季節ごと、新商品発売時など、随時各種のノルマが発生することがある。

 

銀行に評価される営業担当者とは

そして、銀行内部での評価(特に営業担当者の場合)は、「いかに顧客のために貢献したか」より、「いかにノルマ達成により銀行利益に貢献できたか」に比重が置かれるのです。結果、数字に強い人間が出世していきます。

「顧客にいかに貢献したか」は、数字に見えません。例えば顧客企業に、販売強化の有益な助言をしたり、資金繰り改善のため資金繰り表作成の手ほどきをしたり、会社の経営課題について意見交換したり・・・。経営者に喜ばれるこれらの支援は、目に見えません。逆に上司からは、「お金にならないこと時間をかけ、何をしているんだ!」と睨まれかねません。

一方、各ノルマの獲得は、目に見えます。特に最近では、手数料収入の獲得が評価されます。投資信託や生命保険の獲得などです。獲得金額の何%かが、即日獲得手数料として、実績計上されます。例えば500万円の獲得で、手数料が3%なら、15万円の利益です。営業担当者も、「この仕事ではいくら利益を上げることができた」と、目に見えて自分の仕事が確認できるため、モチベーションが上がります。

 

ノルマが引き起こす不祥事件

こうして現場は、法令ぎりぎりのラインで、高齢者に必要の無いリスク商品を売り込んだり、頻繁に売買を繰り返させて手数料を稼いだり、して全国で問題になっています。銀行員は信用があるので、「銀行さんが言うことなら」と、特に高齢者はセールスに対して、首を縦に振るのです。そして虎の子の老後資金を毀損させることになります。

融資に関する不祥事件で記憶に新しいところでは、冒頭にお話しした商工中金の不正融資事件、また大きな社会問題になったスルガ銀行のシェアハウス不正融資事件があります。

特にシェアハウス不正融資事件では、高い収益力が市場や監督行政当局に高評価され、「地方銀行の優等生」とされていたスルガ銀行が、一気に業績悪化、多額の赤字計上に至りました。

アパートローン実行に関して多額のノルマを抱えた現場営業担当者が、営業担当役員の強烈なプレッシャーに追い詰めれました。そのため銀行の営業担当者が、融資審査書類(頭金になる預金口座の残高証明、年収証明資料)の改ざんをシェアハウスの販売業者や仲介会社に指示しました。そして、本来融資できない融資が審査に通り、多額・多件数、不正融資が実行されました。

その後、シェアハウスの運営会社が破綻し、家賃収入が入らなくなった家主(アパートローン契約者:債務者)は、融資の返済が困難になりました。債務者である家主は、弁護士の元に団結し、集団でスルガ銀行を訴えました。その結果、和解条件としてスルガ銀行は、多額の債権を放棄し、大幅な赤字を計上、経営陣は退陣に追い込まれました。

一例ですが、このように過大なノルマは、「銀行の営業担当者に不正を働かせる一因となること」が分かります。顧客からの信用低下、銀行員の人材流出が起こり、銀行の存続が危ぶまれる事態となります。

 

顧客より、銀行内部の利益重視。誰が悪いの??

金融庁も問題視し、「顧客本位の業務運営」をするように、全国の銀行に対して指導しています。

これは、現場の銀行営業担当者が悪いのではありません。組織の意向に逆らい、販売しなければ、自分が干されてしまいます。「顧客が不利になるような営業活動をしてはならない」。社会常識に照らして考えれば、簡単に分かることです。しかし、組織の論理に飲み込まれます。「自分たちは、これで稼いで給料をもらっている」。上司からも言われます。「利益が飯の種だろ!目標を必達せよ!」。こうして感覚が麻痺します。

原因は、「手数料を無理に稼がなければ成り立たない銀行のビジネスモデル」にあります。オーバーバンキング(銀行の数が多いこと)と、銀行員の過剰(給与を払うために無理をしないといけない)により、ビジネスモデルに無理が出ているのです。銀行員が顧客ニーズに反して無理に商品を売らねばならない。過去に先輩銀行員が蓄積してきた信用を切り刻みながら、顧客を犠牲にして短期利益を積み上げている。こんなことが、いつまでも続くわけがありません。

 

気づき始めた顧客と一部の銀行

顧客は感じ始めました。「この銀行と取引していても損させられる」。すると顧客は、異業種から参入した銀行や無理な提案をしてこない政府系金融機関に流れていきます。結局銀行は、自分自身の首を絞めることになります。

これはまずい!と気づいて、方針転換を始めた銀行もあります。銀行内部重視から顧客重視に発想を転換しています。「顧客のためにどれだけ貢献したか」、を業績評価基準に大きく組み込むことにしました。

銀行員とノルマ。切っても切り離せない関係でしたが、見直す時期にきています。銀行は『金融サービス業』なのです。顧客をおろそかにしては、事業継続が難しくなります。

 

ノルマは完全に廃止されるのか

今後、銀行のノルマは廃止されるのか、、、。私の予想を少しお話しします。

上記のように、ノルマの弊害に気づき、ノルマそのものをなくしてしてしまう銀行も、少数ですが出てきています。

ノルマを無くせば、短期的には銀行の業績が落ちます。銀行は多くが上場企業ですから、投資家から収益を求められます。

そこをどこまで経営陣が我慢できるかです。

ですから、ノルマ廃止は、コスト削減とセットになります。

店舗の統廃合、採用抑制・退職自然減による人件費の削減、無駄な業務の見直し、行職員一人一人の生産性の向上、など改善策の実行が必須です。

コスト削減による収益確保で、ノルマ廃止の収益損失をカバーするのです。

それと、組織文化です。

現在の幹部クラスである中高年は、「数字を取ってきてなんぼ!」の世代です。ノルマ廃止には大きな抵抗感があるでしょう。

管理職はノルマが廃止されれば、何を根拠に部下を評価・管理すればいいのか、迷います。

そのため、ノルマ廃止(または削減)の流れは、今の幹部クラスが退職し、若い世代に切り替わっていく過程で、少しづつ進んでいくものなのかもしれません。

 

以上、銀行員とノルマについて、お話ししました。

 

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