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銀行にフィデューシャリー・デューティー(顧客本位の業務運営)が浸透しない訳

~金融庁が打ち出した方針~

金融庁が2016年事務年度の金融行政方針で、「フィーデューシャリー・デューティー(顧客本位の業務運営)以下FD)の強化を打ち出した。

銀行は以前から金融サービス業だったわけで、何を今更と思うが、業界全体でできていないから、金融庁がわざわざ大々的に打ち出しているわけである。特に預かり資産(投資信託や生命保険)の販売分野でFDの徹底が求められている。

~銀行従来のビジネスモデルが厳しくなっている~

従来銀行は、預金先から預かったお金を融資先に貸し出しして、その利ざや収入を中心に商売をしてきた。

しかしながら昨今は、社会の成熟化で投資が一巡し、企業の設備投資意欲が低下したことで、資金需要が減少している。加えて銀行間の金利競争により、得られる金利収入が減少し、本業の預貸金業務だけでは、収益を上げることが難しくなっている。

貸倒れ割合の低い優良企業には、複数の銀行が殺到するため金利競争になり、貸倒れ割合が高い企業には、信用リスクが高いため、貸せない。そんな状況がしばらく続いている。そして日銀のマイナス金利政策。

現在、銀行は金利収入の低下を補うために、手数料収入の増強に努めている。例えばM&Aの仲介、私募債の引き受け、デリバティブ商品の販売、そして預かり資産(投資信託、生命保険)の販売などだ。

銀行が預かり資産の販売に注力し始めてから10年以上が経過する。最初は銀行員もおっかなびっくりだった。なんせ、預金は原則元本保証である。元本が割れるかもしれない商品を販売することに抵抗があった。

しかし、そのうち現場の営業担当者が慣れてきた。そして何より、実績(手数料収入)が目に見えて分かる。この商品をこの金額販売したら、これだけ手数料が入った、と自分の頑張りが数字で表れるため、モチベーションが上がった。そして勝負が早い。1日で成果がでる。(提案して了承されたら、即販売できる)。

~手数料ビジネスを行うことで出てきた問題点~

でも良いことばかりではない。そのうち損失を被った顧客から「あんたが勧めるから、買ったけど損したよ」と苦情を言われることも増えてきた。でも予算(ノルマ)は両肩にのしかかる。だんだん疲れてくる。しかし、本部からの予算示達は、増える一方だ。今は、外回りの営業担当者だけでなく、窓口テラーにも目標を与えて来店客に提案販売している。全国的にこんな状態なのだ。

こうした背景の中で、営業担当者やテラーが手数料率の高い商品を優先的に販売(手数料率の高い商品は、新興国向けなどが多く、リスクも高い傾向がある)したり、回転売買(売り買いを頻繁に行わせ、販売手数料を稼ぐ)を行ったり、リスク理解度が低い高齢者に販売したりする事例が、各地で頻発している。

だから、従来から貯蓄から投資へと旗を振っている金融庁が、顧客の銀行離れを危惧して、FD徹底の方針を打ち出したのだ。

~問題がある人事評価の仕組み~

銀行の評価制度にも問題がある。手数料を多く稼いだ支店や担当者が評価され、少ないと「努力不足だ!」と改善指示が飛ぶ。預かり資産を販売することによる手数料獲得は「手っ取り早い」し、組織から評価が高い。販売時に一括で手数料計上(信託報酬という管理することでの手数料もあるが、販売手数料に比べると少額)されるので、新規で売り続けないといけない。

上場企業である銀行は、四半期決算で、株主からの収益目標達成を厳しく問われる。組織も現場も、やめたくてもやめられない。

販売しないといけない現場は大変だと思うが、こうした「手数料獲得ありき」の姿勢で販売することにより、顧客からの信頼は低下している。

~問われる銀行の経営戦略~

一番良いのは、営業店にノルマを与えないこと。手を挙げた顧客に販売すること。ネット証券やネット生保はこの方法でやっている。

しかし、銀行で自然体で販売するとなると、販売額は激減するだろう。売っているから売れているだけだ。「銀行さんが勧めるのだから、間違いないだろう、損するようなことは提案してこないだろう」と思って買っている顧客もいる(特に高齢者など)。

現場の営業マンは、目先の手数料獲得を重視する。そして世の中は時短の流れである。稼働時間も限られ費用対効果も考えないといけない。

だから、目に見えにくく成果が出るまで時間がかかる、「業績不振企業の経営改善支援」や「ビジネスマッチングなどの取引先の本業支援」には力が入らない。経験も時間も無いから、事業性を評価して融資するような能力も不足がちになる。

金融庁が推進する「フィーデューシャリー・デューティー」。声高に叫んでも、こうした状況に置かれている限り、浸透していくのに時間がかかる。組織や現場は、抜け道を探して目の前の手数料を稼ぐ。そして反対に顧客からの信頼は薄れていく。

今、銀行経営は戦略を問われているのだ。

「これでは駄目だ!」と気づいて、実行に移している銀行もある。相変わらずの銀行もある。時間が経過するほどに差は広がるだろう。

《記事のまとめ》
・金融庁は、銀行に対して「顧客本位の業務運営」ができているかどうか、確認を始めた
・銀行は、マイナス金利下で「手数料ビジネス」を強化している
・銀行員が目先の利益を追求するのは、人事制度の影響もある
・「顧客本位の業務運営」に本気で取り組むかどうか、銀行により温度差がある。本気で取り組まないと、顧客離れにつながると予測される

【この記事書いたのはこんな人】
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「銀行にフィデューシャリー・デューティー(顧客本位の業務運営)が浸透しない訳 」
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